#73 陽

#73 陽

天狗岳から戻り奥宮頂上社での夕拝までの間、山荘2階の広間に割り当てられた一人一畳のスペースで着替えと寝床の支度。
広間に仕切りなどは無く、20人ほどが布団を並べての雑魚寝スタイル。若かりし頃の合宿や修学旅行を彷彿とさせる懐かしい光景でした。
山荘では雨水を利用している為、夜間は断水があり、手洗いやトイレの水も限られていて当然風呂などは有りません。

夕拝後、山荘へ戻ると夕食の時間。久々にカレーライスを頂きましたが、何故かとてつもなく美味しく感じました。
夕食後に翌日の支度を整えた後、夕日を見ようかと外へ。宿泊の皆さんはほとんど外へ出られていました。18時半頃から空の際が色付き初め、19時過ぎまで美しいグラデーションを見せてくれました。

21時半に消灯するも深く眠る事が出来ず、1時半頃に目が覚めて。外は猛烈な風が吹いている様で、カタカタと揺れる窓枠と風の鳴く音が真っ暗な広間に響いていました。
流石に動き出すのはまだ早いと、布団の中で再び目を閉じて微睡。3時を過ぎた辺りから周囲の目覚め始めた様子を感じ、4時少し前に布団から抜け出して一階へ。
用足しを済ませ食堂脇の丸太の椅子で前日の事を思い出しながら、旅の記録を付けたり外の様子を伺いながら夜明けを待ちました。

4時半頃から徐々に空の様子が露わになり、さてそろそろと外へ出ると、宿泊者以外にも御来光を見ようと多くの登山者が詰めかけていました。
吹き荒ぶ寒風を耐えながら東の空を睨んで5時過ぎ。前日の夕陽を巻き戻しているかの様な日の出を拝む事が出来ました。

日の出の後、一度山荘内に戻り6時から奥宮頂上社での朝拝神事へ。ラミネートされたプリントが配られ、大祓いの言葉を参列者一同で斉唱。
続いて日本に約八万社ある神社で、唯一この石鎚神社奥宮頂上社のみで行われているという、三体の御神像に直接触れる事が出来るという神事。神職の方に勧めて頂き、巡礼で使っている念珠と頂上の社務所で拝受した御守りを触れさせて頂きました。
これまで「御神像」というものを聞いた事が無かったので、これは珍しく貴重な体験となりました。

朝拝後に朝食を頂き8時に下山開始。山頂の気温は6℃との事でしたが、10m/s近い強風の為体感は更に低く感じました。
下りは途中の夜明峠から登りとは別方面の道を考えていたので、山荘の方に道の様子をお聞きすると「登山道」では無く「山道」と表現され、GPS機器の携帯や山慣れしていないと危険ですとの御助言。
近年には遭難者もあったと聞き、不完全な足の事も考えてこの道は断念。登りと同じ今宮道を下りてもよかったのですが、せっかくならロープウェイにも乗ってみようかと、成就社まで戻りそこからはロープウェイで下る事としました。

山頂からの下りも鎖の行場を通れるのですが、こちらもせっかくならと階段を下るルートを選択。鎖を登らずに階段ルートでも山頂に至れますが、こちらも中々。
この日もよく晴れていましたが風が強く、早い時間から雲が出始めていました。山頂を出発し9時半に成就社へ到着後、そのままロープウェイ乗り場へ。麓までは約10分の乗車でした。
ロープウェイを降りて少し下ると、山頂の石鎚神社奥宮頂上社で触れた御神像と弘法大師、役行者、さらに不動明王像などが並ぶ場所へ。
稚拙な表現ですが、スーパーヒーロー大集合といった様相に少々面食らいつつも合掌礼拝。

さらに下りて駐車場近くの土産物屋の御主人に、念の為にと道をお尋ねして暫しの雑談。
区切り打ちですとお話しすると「二年位でしょ」とズバリ。笠の日焼け具合で分かるよと、これまで多くのお遍路さんを見て来られたのであろう眼力に感服し、お礼をお伝えしてその場を後にしました。

山深い渓谷の道を4km程歩いて河口のバス停へ。更にひたひたと歩き、極楽寺様前でバス停のベンチをお借りして休憩。
携行食をかじりながら極楽寺様境内の案内板を眺め、案外広大な敷地なのではと思い、すぐそばに見えた本堂への道を覗いてみると、天を突くような石段が続いていました。
(今思えば時間を割いて見ておくべきだったと少し後悔しています…)

その後も前日に来た道をあれこれと思い返しながら歩き、14時半に石鎚神社口之宮本社へ到着。本殿へ御礼の御挨拶の後、弘法大師像と役行者像へ登拝の無事を感謝して宿泊所のある会館へと入りました。

翌五月六日 巡礼十日目。
当日は昼過ぎの便で帰宅するのみだったので時間に余裕はあったのですが、いつもの癖か午前3時ごろに目が覚めてしまい、布団の中で1、2時間うたた寝を繰り返しながら夜明けを待ちました。

6時からの朝拝に参加する為しとしとと降る雨の中、石段を上がり本殿まで。他に参加の方も無く、案内された本殿前の椅子に着き、神職の方に出発前のお祓いをして頂きました。

口之宮本社から伊予西条駅まで、帰りは徒歩で。朝拝の頃はしっかりと降っていた雨も、神社から駅までの間は不思議と止んでいました。

駅到着と同時に特急が発車したので、これまで利用した事の無かった鈍行に乗ってみる事に。
車窓に流れる景色を目で追ったり、旅中の出来事を思い出しながらメモに書き留めていると、松山駅までの2時間もあっという間。

数分後、バスに乗り換えて空港へ移動し、帰路の便で四国を後にしました。

報告する

こんな記事も読まれてます

コメント

  1. こんなに綺麗な朝焼けが見られるとは辛くても登った甲斐がありますね。おそらく四国遍路をまわっている人の中でもこちらに伺うのは僅かなんだろうと思いますがそれだけの価値はありますね。

  2. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    素晴らしい夕陽と朝陽を拝ませて頂けたのは本当に有難い事でした。
    四国各地にはまだまだ足を運べていない奥の院や番外霊場、霊跡などがありますが、そうした場所にも今まで体験したことのない出来事があるのでしょうね。
    本当に奥が深いと思います。

コメントするためには、 ログイン してください。