#83 大滝山

#83 大滝山

二日目。
この日は7時半に出発。大瀧寺まで約12kmの道程という事もあり、しっかりと明るくなってからの出発となりました。

館外へ出ると、陽はまだ見えないものの空は明るく、前日より暖かいかなと感じたのも束の間、少し歩けばしっかりと寒さを感じ、ネックウォーマーを鼻の上まで引き上げました。

ホテルから500m程で106号線へ右折し、椛川ダムへ向けて。
周囲の山は前日と同じような様子でしたが、樹上に薄っすらと被る程度の雪かと思っていたのも、よく見れば山肌にもしっかりと積もっているのが分かりました。

大瀧寺は大滝山の頂上付近にありますが、恐らく今目にしているダム湖畔を囲む山々よりも高い位置だろうと予想していました。

若干のアップダウンを繰り返しながらダムの周りを沿うように進み、ダム周遊道路の終わりから大滝山へ。
序盤は轍もはっきりと残っていて積雪は2cm程。右に左にと、つづらに折れながら緩い登りが続きます。

一時間程登ると、雪上のタイヤ痕が薄くなっている場所へ。その手前には切り返して戻った様な跡。
ここから先、今日は誰も通っていないのか。
何かの動物の足跡もありましたが、今日のものでは無い様でした。

足元は少し深くなって5cm程。靴が半分くらい埋まる感じでしたが、サラサラとした雪質と気温の低さからか靴が濡れるという感覚が無く、足を取られる様な事も有りませんでした。

標高が上がるにつれて気温も下がっていくようで、雪上を渡って来る風も相まってより一層の冷え込みに、徐々に手の感覚が無くなっていきました。
薄着が祟って体がかなり冷え、拳に握った手を交互に口に当て吐く息で温めながら、さすがにこれはマズいかもと。

それでも、雪中の山を歩くというのは人生初の新鮮で感動的な体験となりました。
樹上からサラサラと降る細かな雪が日に照らされて黄金に輝き、上を見上げれば常緑樹の緑と白と冬の晴れ間の澄んだ青。
芯まで凍えながらも、そんな光景に幾度と無く足を止めて見入ってしまいました。

夏子ダムの方から来るのか、何台かの車が雪を巻き上げながら追い越していく後ろ姿に、ここまで上がってくるのも凄いなと歩を進めていると西照神社の駐車場前へ。
その少し先には「→大瀧寺」の看板。
そこから5分ほどで大瀧寺到着。

石段を上がり、先ずは鐘を撞こうと右手の鐘楼へ。
真っ新に敷かれた雪をサクサクと踏みながら、今日は誰も来ていないのだろうかと後ろを振り返り、撞木を振って鐘を鳴らすと、雪に吸われていくような不思議な音。

本堂前へ戻り灯明と線香をとライターを取り出すも、感覚の無い手では力が入らず着火に苦戦。
気温が低すぎてガスが気化しないのか、手持ちのライターを諦めて蝋燭台の引き出しを開けると、有り難く色々の火種。
お借りしてなんとか火を灯し、小刻みに震えながら読経を始めました。

本堂大師堂と終えて納経所の呼び鈴を鳴らすと、奥の方で扉の開閉と足音が聞こえて暫く。

御対応下さったのは御住職様か。
少し異様な目をされて小さなガラスの引き戸を開けると、すぐさまドライヤーを差し出して下さいました。

人生の半分以上を丸坊主で過ごして来た私は、ドライヤーとはほとんど御縁がありませんでしたが、この時ほど、この小さな温風機を有難いと思った事は有りませんでした。
手先を擦り合わせて感覚復活。

納経後、「今日のご予定は?」との御質問に
「下まで降りて新樺川ホテルで…」とお答えすると、
「お茶でも飲んでいきますか?」
と、有難いお申し出。

こんな時、大抵は遠慮してしまうのですが、この時は有り難くお受けする事に。

「そちらからどうぞ」と、大師堂脇の引き戸を開けて玄関の中へ入ると大きな石油ストーブを着けて下さり、少しして蜂蜜入りの紅茶と「お口に合わなければ残して下さい」と焼きたての小倉トーストまで。

体が冷え切っているからとのお心遣い。
涙が出るほど有り難かったです。

30分ほど暖を頂いてから下山開始。
下りは持参したアイゼンを装着して。
多分使わないだろうなと思いながらも、カバンに忍ばせておいたのは正解でした。

下りは良い良い。登りよりも気持ちに余裕が有り、景色を楽しみながら降りて行きました。
途中、下から上がって来た方と御挨拶。
お遍路さんでは無い様でしたが、肌の露出が一切無い、しっかりとした防寒対策の登山装備を見て、やはり冬山へ登る時はああでは無いと駄目なんだなと反省。

14時半頃、新樺川ホテル前へ到着。
少し空腹を感じていたので、ホテルの先にある道の駅塩江へ。
肉うどんで小腹を満たし、翌日の朝食を買い出して宿へ戻りました。

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コメント

  1. 寒い中お疲れ様でした。こんなに雪の積もったときの遍路は経験していませんが、きっと大変だったことでしょう。その一方で、それらの苦行を楽しんでられているような感じも伝わってきます。引き返すことなく、どうやって前に進めるかに向き合える遍路はやっぱり人を強くするのですね。

  2. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    予想していたよりも積もっていましたが、舗装路という事もあり、それほど難儀はしませんでした。
    これが金刀比羅宮ルートなど未舗装の山道だったら、道が分かりにくく、登るのも苦労したかも知れませんね。

    山頂付近の寒さは流石に堪えましたが、最後の旅で雪の中を歩くという経験と、素晴らしい景色を見せて頂けた事に感謝です。

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