
人の気配のない道
三原村の農家民宿を出る朝、空は相変わらず静かだった。
村を出てしばらく歩くが、やはり人の姿はほとんど見えない。車も通らず、音の少ない道が続く。昨日と同じように、どこか現実から切り離された場所を歩いている感じがした。
やがてダムの上を渡る橋に出る。
視界が一気に開け、広い水面と山の景色が遠くまで見渡せる。風も心地よく、思わず足を止めた。こういう場所に出ると、人の目を気にせず橋の両側を行き来してゆっくり見ることができることに、かえってありがたく感じる。
その後しばらく進むと、平田の町に入る。
家が増え、車の音も聞こえてくる。人の姿も見え始め、「ああ、町に戻ってきたな」と少し安心した。人の気配があるだけで、こんなにも気持ちが落ち着くのかと思う。
久しぶりの札所、延光寺
平田を抜けて歩くと、延光寺に到着する。
しばらく札所のない日が続いていたので、久しぶりのお寺だ。
参拝を終えたあと、境内のベンチに腰を下ろす。
いつもなら手を合わせたらすぐに歩き出していたが、今日は少し違った。本堂や、ゆっくり参拝している人たちの姿をぼんやり眺めている。自分でも、「ずいぶん余裕が出てきたな」と感じた。
急ぐ必要がない。
ただ、ここに座っている時間も、遍路の一部のように思えた。
宿毛の町と松尾峠
その後、宿毛の町に入る。
コンビニが見えたとき、思わずほっとした。これまで当たり前だった場所が、こんなに安心できる存在になるとは思っていなかった。
時間はまだ余裕がある。
いつもならコンビニで簡単に済ませるところだが、今日は時間調整も兼ねてラーメン屋に入ることにした。歩き続けていると、こういう「町の時間」が少し新鮮に感じる。
本当はそのまま国道を進み愛媛県に入る予定だった。
でも、せっかくなので松尾峠を歩いてみることにした。これまではできるだけ効率よく先へ進めるよう、国道などの車道や距離の短いルートを選んできた。でも最近は、少し考え方が変わってきた。
峠道は確かに体力的にはきつい。
それでも、なぜか苦ではない。車を気にする必要もないし、道端ですれ違う人の視線を気にすることもない。ただ自分だけの道が続いている。その静けさが、むしろ心地よく感じられた。
夕方、愛媛県の一本松に到着。
もっと歩こうと思えば歩ける距離だったが、この先はしばらく宿が少ないため今日は峠道を歩き、ちょうどいい時間で宿に到着できた。
今日の学び
最近、少し考え方が変わってきた気がする。
これまでは「効率よく先へ進む」ことばかり考えていた。でも今日は、あえて峠道を選んだ。
時間はかかるし、体力も使う。
それでも、その道には静けさがあり、自分のペースだけで歩ける心地よさがあった。
遍路は距離を稼ぐ旅ではなく、どの道を選んで歩くか、と思うようになってきた。


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