7日目:孤独な道と、口数が増える夜(由岐▶大砂)

7日目:孤独な道と、口数が増える夜(由岐▶大砂)

薬王寺までの朝道

朝7時に宿を出発。ひんやりした空気の中、まずは静かな生活道路を抜け、浜の前に駅がある鉄道の線路沿いを進む。左手には穏やかな海が広がり、潮の香りが朝の眠気を吹き飛ばしてくれる。

やがて「俳句の坂」と呼ばれる小道へ。道の脇に並ぶ句碑を追いかけるように一歩ずつ登ると、急坂のきつさもどこか和らぐ。坂を下りきると再び海が視界に広がり、潮風に背中を押されるように歩を進める。しばらくして薬王寺の山門に到着し、ようやくひと息ついた。
 
 

薬王寺を後に、国道歩きの始まり

薬王寺を出ると、すぐ近くの道の駅に立ち寄った。トイレを借りて水分を補給し、ベンチでひと息つく。体力的にはまだ余裕があるが、長い道のりを見据えるとこうした短い休憩がありがたい。

その後は、国道をひたすら進む時間が始まった。単調なアスファルトの道が延々と続き、聞こえるのは車が通り過ぎる音と、自分の靴音だけ。山道のような変化や緊張感はないのに、逆に景色が変わらないぶん気持ちがだれてくる。足取りは軽くても、心のほうが試される道だった。
 
 

牟岐の町、コンビニでひと息

歩き続けてようやく牟岐の町に入った。見慣れたコンビニの看板が目に入った瞬間、妙に安心する。店で飲み物を買い、建物脇の小さなスペースに腰を下ろして休憩した。ベンチのようなものはなく、意外と「座れる場所」というのは少ない。コンクリートの冷たさが火照った体にはちょうどよく、しばし無言で体を休めた。

小休止を終えると、再び国道へ。車の往来は多いが、歩道はそれほど整備されていない。ところどころ草や苔が生えていて、気を抜くと滑りそうになる。結局は側溝の蓋の上をバランスを取りながら歩くことが多く、足元に神経を使う。真っ直ぐに続く道なのに、思った以上に気が休まらない。それでも、コンビニで得たエネルギーを頼りに、また一歩一歩と足を進めていった。
 
 

国道の先に広がる大砂の浜

夕方が近づくころ、ようやく大砂地区に入った。視界の先に広がるのは海岸沿いの集落と、静かに横たわる砂浜。今日一日、山道ではなく国道をひたすら歩き続けてきただけに、海辺の景色がひときわ新鮮に映る。足の裏はじんじんと痛み、肩に食い込むリュックの重さも限界に近い。それでも「ここまで来た」という達成感が勝って、自然と笑みがこぼれた。宿にたどり着き、荷物を下ろした瞬間、体中の力がふっと抜けていくのを感じた。
 
 

今日の学び

宿に着き地図を眺めたとき、「いよいよ戻るより進むしかない場所まで来たんだ」と実感した。歩き遍路は選択肢があるようで、気づけば一本道。振り返るよりも前を向くしかない。そんな当たり前のことを、足で確かめながら学んだ一日だった。
さらに思ったのは、ここまでの数日間、人との交流はほとんどなく、ひとり黙々と歩く時間の方がずっと長いということ。その孤独もまた、歩き遍路の一部なのだと感じた。だからこそ、宿で会話できるときには、普段よりも自然と口数が増えている自分に気づく。それもまた、この旅の大切な一側面なのだと思う。
 
 

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コメント

  1. 毎回、更新を楽しみに読ませていただいています。些細な場面の描写がとてもお上手で、情景がいつも自然に浮かびます。

  2. @あの時の亀
    コメントありがとうございます。
    思うままに書いているため、皆さんの感じ方と少し異なるところがあるかもしれませんが、共感していただけているなら嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

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