
朝から遍路ころがしに挑戦
朝、宿の方に車で雲辺寺の麓まで送っていただく。
昨日迎えに来てもらった場所まで戻り、そこから歩き遍路を再開する。宿の方にお礼を伝え、ザックを背負って歩き始めた。
今日最初に目指すのは、六十六番札所・雲辺寺。標高約900メートルにある、四国八十八ヶ所で最も標高の高い札所だ。
しかも、これから歩くのは「遍路ころがし」と呼ばれる難所。
名前からして、あまり楽しそうな道ではない。
最初はまだ余裕があったが、山道に入るとすぐに勾配がきつくなる。木々に囲まれた道は薄暗く、足元には木の根や石が出ている。場所によっては道幅も狭く、一歩一歩足元を確かめながら登っていく。
しばらく登ると息が上がり、足も重くなってきた。
立ち止まって水を飲み、また登る。その繰り返しだ。
途中には急な坂もあり、少し前かがみにならないと登りにくい場所もある。昨日の三角寺も大変だったが、今日は最初から山登りという感じだ。「遍路ころがし」という名前にも納得してしまう。
歩いても歩いても、なかなか標高が上がった実感がない。木々に囲まれているので、どこまで登ったのかもよく分からない。時々、木々の間から遠くの山が見える。
景色はきれいなのだが、今はそれを楽しむ余裕もあまりない。
とにかく早く着きたい。
そんなことを考えながら、ひたすら登り続けた。
雲辺寺に到着。でも、まだ終わらない
長い登りを終え、ようやく六十六番札所・雲辺寺に到着した。
標高の高い場所だけあって、空気が少しひんやりしている。
境内は想像していた以上に広く、きれいに整備されていた。山の上とは思えないほど立派なお寺だ。
特に印象的だったのは、境内に並ぶ五百羅漢像。たくさんの石像が並んでいて、それぞれ顔つきや表情が違う。笑っているような顔もあれば、難しそうな顔もある。つい一体ずつ眺めてしまう。
このあたりには、山の上から景色を楽しめる空中ブランコやカフェなどもあるらしい。せっかくここまで来たのだから、少し寄ってみたい気持ちもある。
でも、今は何となく観光気分になりたくなかった。
ここまでずっと歩き遍路のことばかり考えてきたので、途中でその気分を切り替えたくないというか、せっかく続いている自分の中の「遍路モード」を壊したくなかった。
雲辺寺にはロープウェイもある。
山の上まで簡単に来られるのだから便利なものだ。参拝を終えた人たちがロープウェイで下りていくのを見ると、正直うらやましくなる。
ここまで自分の足で登ってきたのだから下りも歩くことにしたが、下りの遍路道もなかなか手ごわかった。
急な坂が続き、足元には石や木の根がある。滑りやすい場所では歩幅を小さくして、慎重に下っていく。
登りは息が苦しいが、下りは膝がつらい。しかも、なかなか山が終わらない。
「もうそろそろ平地だろう」
そう思っても、次の曲がり角の先にはまた山道が続いている。
途中で何度も立ち止まり、足を休ませた。
ロープウェイならあっという間なのだろうが、歩くと本当に長い。
ようやく山を抜け、普通の道に出たときには心底ほっとした。
雲辺寺は登りだけでなく、下りまでしっかり大変なお寺だった。
香川県に入り、札所が続く
山を下りたあとは、六十七番札所・大興寺へ向かう。
雲辺寺でかなり体力を使ったので、平らな道を歩けることがありがたい。
山の中ではほとんど人に会わなかったが、麓に下りると民家や田畑が現れ、いつもの田舎道に戻ってきた。
大興寺は、田園地帯の中にある落ち着いたお寺だった。
境内に入ると、立派なカヤの大木が目に入る。長い年月を生きてきた木らしく、太い幹には迫力がある。ここは真言宗と天台宗の両方に関わりがある珍しい札所としても知られている。
雲辺寺のような山の上のお寺とは違い、静かで親しみやすい雰囲気だった。
参拝を終えると、次は観音寺市街を目指す。
ここからもまだ距離がある。
道は比較的平坦だが、朝から山を登って下りてきた足には、普通の道でさえ長く感じる。
田んぼや住宅が続き、時々車が通り過ぎていく。
遠くには山が見えるが、もう今日は登りたくない。
そんなことを考えながら歩いていると、少しずつ建物が増え、観音寺の町に近づいてきた。
一度に二つのお寺を参拝
ようやく六十八番札所・神恵院と六十九番札所・観音寺に到着した。
ここは少し変わっていて、二つの札所が同じ境内にある。
つまり、一度来れば二つのお寺を参拝できるのだ。
これまで一つの札所へ行くために何時間も歩いたことを思えば、なんともありがたい。
「これはラッキーだな」
思わずそんなことを考えてしまった。
境内は琴弾山の麓にあり、木々に囲まれた落ち着いた雰囲気だ。
神恵院の本堂はコンクリート造りの建物の中にあり、少し変わった造りになっている。一方、観音寺の本堂は昔ながらの木造建築で、国の重要文化財にも指定されている。
同じ境内にありながら、二つのお寺の雰囲気はずいぶん違う。
それぞれでお参りを済ませ、納経帳にも二つの御朱印をいただいた。
一か所で二つの札所を巡れるのは、八十八ヶ所の中でもここだけらしい。
今日は雲辺寺の登り下りでずいぶん苦労したので、最後に少し得をした気分になった。
参拝を終えると、あとは宿へ向かうだけ。
もう足にはかなり疲れがたまっている。
宿に到着してザックを下ろしたときには、思わず大きなため息が出た。
今日は本当によく歩いた。
いよいよ最後の県、香川県に入った。
八十八ヶ所も、残すところ十九ヶ寺。
まだまだ先は長いと思っていたが、終わりが少しずつ近づいている。
今日の学び
今日は雲辺寺への登りも大変だったが、下りも同じくらい大変だった。
登っているときは「早く頂上に着きたい」と思い、頂上に着いたら今度は「早く麓に下りたい」と思う。
結局、一日中そんなことばかり考えていた気がする。
ロープウェイを使えば、ずっと楽だったはずだ。
でも、苦労して下りてきたからこそ、普通の舗装路に戻ったときのありがたさも感じられた。
歩き遍路をしていると、普段なら何とも思わないことが、妙にうれしくなる。
平らな道を普通に歩ける。それだけでも、今日は十分ありがたかった。


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