29日目:まだ知らない四国があった(道後▶菊間)

29日目:まだ知らない四国があった(道後▶菊間)

松山の町を抜ける

道後のゲストハウスを出る朝。
昨日までの札所ラッシュから一転して、今日は海沿いを北へ向かう。

市街地を抜けるまでは信号も多く、人や車も多い。
歩き遍路というより、普通の町歩きをしているような感覚だ。それでも少しずつ住宅街が減り、視界が開けてくると、また旅に戻った気がした。

まずは五十二番札所・太山寺へ向かう。
山門へ続く参道は静かで、町の喧騒から少し離れた空気が流れている。ただ、本堂までは思っていた以上に遠い。寺らしい雰囲気の参道というより、延々と続く上り坂を歩いている感覚だ。
歩いても歩いてもお寺らしい建物が見えてこないので、「本当にこの道で合っているのか」「まだ先なのか」と少し不安になる。ようやく境内に着くと、それまでの道のりが嘘のように落ち着いた空気に包まれていた。朝の参拝にはちょうどよい静けさだった。

その後、五十三番札所・円明寺へ。
こちらは住宅地に近く、人の暮らしの中に自然と溶け込んでいるようなお寺だった。昨日までと同じように手を合わせるが、今日は不思議と気持ちが軽い。
 
 

穏やかな海

円明寺を出ると、ひたすら北へ進む。

左手には穏やかな海が広がる。
瀬戸内海らしく波はほとんどなく、水面は静かだ。高知で見た太平洋とはまるで違う。同じ海でも、こうも表情が変わるものなのかと思う。

道は海に近づいたり離れたりを繰り返す。
海岸沿いを歩いていると、漁港や小さな集落が次々に現れる。派手な景色ではないが、どこか安心する風景だ。

途中、ガードレールに腰掛けて海を眺める。
波の音もほとんど聞こえず、水面だけが静かに光っていた。

高知の海が「自然の大きさ」だとしたら、こちらの海は「暮らしの海」という感じがする。そんなことを考えながら歩いていた。
 
 

菊間

午後になると、菊間の町が見えてくる。
瓦で有名な町だと聞いていたが、歩いていると確かに屋根瓦が印象に残る。

本来ならもう少し先へ進みたいところだが、このあたりは宿が少ない。
というより、歩いて行ける範囲に泊まれる場所がほとんどないため、今回はあらかじめ道中にある宿を予約していた。
時間も体力もまだ余裕がある。そこで、歩けるところまで歩いてから電車で宿へ戻る計画にしていた。
この先には今治という大きな町もあるらしい。興味はあるが、まだ自分の足で歩いていない景色を電車の窓から先に見てしまうのは、なんだかもったいない気がする。
一度見てしまうと、初めてその場所にたどり着いたときの感動が少し薄れてしまいそうだ。だから、まだ歩いていない区間は見ない。これは遍路を始めてから、自分の中で決めている小さなルールのひとつだ。

夕方、菊間駅から電車に乗り、伊予北条方面へ戻る。
歩いている最中は当たり前になっているが、電車に乗ると自分が進んできた距離を一瞬で巻き戻していく。不思議な感覚だ。
 
 

今日の学び

瀬戸内海を初めてみた。
高知で見てきた太平洋とはまるで違う。
波は穏やかで、海の向こうには島影が見える。漁港や集落が点在し、海そのものが人の暮らしの一部になっているようだった。

同じ四国を歩いているはずなのに、景色も空気も全然違う。
山を越え、県を越え、海が変わるだけで、旅の印象まで変わってしまう。

もう何週間も歩いているのに、まだ知らない四国が出てくる。
今日はそんな新鮮さを感じた一日だった。
 
 

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