#11 へんろ転がし

#11 へんろ転がし

今思えばあの道も、登山経験等有る方からすれば何のことは無いのかもしれませんが、ろくに経験も無い私にとっては未知の世界であり一人で山に入って行くなど想像も出来ませんでした。

途中、へんろ転がしの洗礼を幾度と無く受けながら進んで行きましたが、正直心臓が引き千切れるかと思いました。荷物も肩に食い込み思い出す、何処かで読んだ「荷物を捨てたくなる」という言葉。
呼吸を整えつつ、トレーニングしていなければ登れなかったなと、半年かけて準備してきた甲斐があったと思いました。

只のキツい山道だけであったら恐らく越える事は難しかったのかも知れませんが、途中何度となく現れる四国の雄大な自然と絶景に心打たれ、足を進める事が出来ました。
焼山寺は八十八霊場中、最も山深い場所に在るそうです。

自分の呼吸と足音、鈴の音。
それ以外は鳥の囀りさえ無い、無音の世界が深々と広がっていました。

どれほど歩いたのか。
時刻を確認する事も休憩する事も忘れ、うわ言の様に口から漏れ出る"南無大師遍照金剛"に突き動かされているようでした。
水分補給と呼吸を整える以外殆ど足を止めずに歩き続け、ようやく焼山寺のものと思われる石垣と灯籠が立ち並ぶ場所へ出ました。

それから程なくして仁王門の前へ。
御門の奥には杉の巨木が頭を覗かせ、山上の御寺様独特の気が満ちていました。

前日出会ったお遍路さんから焼山寺の手水舎の水は飲めると教えて頂いたので、下から持参した3L程の水は焼山寺到着までに全て使い切りました。一応、納経所で飲用可能か確認してから給水させて頂きました。
因みに手水舎以外の水は飲まないで下さいと職員の方からの御助言。
納経所前で羊羹をかじり時刻を確認。
滞在時間約40分。もっと居たかったと、後ろ髪を引かれなが下山へと向かいました。

なんとか日が暮れるまでには山を出たいと、下りも無我夢中で歩き続けました。途中、植村旅館の前を通り過ぎ、ここだったかと前々日の電話を思い返しました。
焼山寺付近でまず目に止まったのがこちらの御宿でしたが、まあ無理だろうと一応電話はしていました。

「えっと、2ヶ月前から予約で一杯です。」
と、納得の御返答。恐らく多くの方がここを目指すであろう事は何となく予想していました。

焼山寺を後にしてどの位歩いたのか。
山道を抜け沈下橋を渡り舗装された車道へ。時刻を見ると何とか大日寺での納経に間に合いそうでした。

当日は大日寺近辺で野宿覚悟でしたが、疲労がピークに近く足も痛み始めていたので、"これで駄目なら已む無し"と、最後の望みを掛けて地図を開き「かどや旅館」へ電話。

数回の呼び出し音の後応対があり、
「少々お待ち下さい。」
と暫くの間。少しして
「離れなら空いてますが?」

電話を終え少し傾いた太陽に合掌。
有難い事でした。

報告する

こんな記事も読まれてます

コメント

  1. 藤井寺から大日寺までは結構な距離で大変だったでしょう。宿も決まってなかったならばその道中は不安だったのではないでしょうか。お疲れ様でした。

  2. 初めての方にとって焼山寺の遍路道は大変大きなプレッシャーを抱えて登って行きます。このまま88番までこの調子なのかと不安に感じる人もいるでしょう。
    さて、添えられた写真に癒されました。下の1枚目の写真の場所は私もよく覚えていて達成感と共に下った思い出が蘇ってきました。

  3. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。
    道中素晴らしい景色が沢山あったので、急ぎ足で通り過ぎてしまったのは少し勿体無い事をしたなと思っています。
    次に歩く事があれば途中で一泊してゆっくり歩いてみたいですね。

  4. @くまごろう
    コメント有難う御座います。
    本当に車道に出るまではずっと不安でした。
    仰られている写真の景色を目の前にした時とても胸が高鳴り、お遍路をしているんだという事を改めて実感しました。

コメントするためには、 ログイン してください。