#50 人とは

#50 人とは

夕食は同宿のお遍路さんと女将さんとお話を交えながら。内子の大凧の事やあれこれと、和やかな雰囲気の中で御食事を頂きました。
女将さんのお話しの中で、この辺りでは夏に熱中症で救急搬送されたり、亡くなられたお遍路さんもいたと聞き、改めて自然を侮ってはいけないのだと、身の引き締まる思いでした。

翌朝。5時頃には出発しようと、いつもの如く起床から一連のルーティーンを経て二階から降りていくと、申し合わせた訳でもなく同じタイミングで同宿のお遍路さんも出発の御様子。
外へ出ると未だ仄暗く、朝方のしっとりとした静寂と、鎮まった空気に満ちていました。

どちらとも「御一緒に」というような言葉を、特に発する事も無く歩き始めました。
一緒に歩き出したお遍路さんは、私より一回り年上で長野県の御出身。7月の中旬、羽田から徳島へ入り歩き始めたそうで、初めてのお遍路で通し打ちとの事。
こちらの方は地図も持っていらっしゃる様でしたが、専らナビアプリを使っておられました。
そのナビアプリは国道など、基本的に舗装された道を案内する様で、地図にあるような徒歩でしか入れない遍路道などは示さないようでした。

遍路道へは入らないのですかと、お聞きすると、
「その道しか無い時は行くけど、基本的には国道とか舗装路だね。前半で散々遍路道にやられたのと、宿の人に"夏は蛇とかいるし、基本的に一人で山に入らない方がいい"って言われてからそうしてるよ。」との御返答に、なるほどと。

遍路発心の理由を聞かれ、いつもの如く呼ばれましたとお答えして、そちらはとお返しすると、
「大人の有給休暇ってやつかな。信心は無いけど。強いて言うなら、婆さんの弔いかな。」
札所でも読経はせずに、亡くなられたお婆さんの事を念じているとの事。
それぞれが、それぞれの思いを胸に巡っている。改めて実感しました。

こちらの方とは歩くペースがほぼ同じだったので、行程的には順調に進んでいましたが、休憩の間隔が2時間に1回程度と私の半分くらいだったので、健脚な方という印象でした。
普段なら1時間に1回の休憩ですが、「まだいける?」との問いに、行けますとお返しし、この日はペースを委ねてみることにしました。

後ろにまわって歩いていると、菅笠につけた"オニヤンマ君"を見つけて、「それ、効きますか?」とお聞きすると、「ああこれ?効くよ。飛んでくるけど、すぐいなくなるよ。」と。
実際に何度かアブが飛んできましたが、2、3周辺りを飛び回ると何処かへ飛び去って行きました。

暫くおしゃべりしながら歩き、暫く無言で歩く。
一人で考え事をしながら、時には無心で歩くのも良いものですが、時には他の方と歩いてみるのも新鮮な感覚で良いものです。
これまでの道中や宿の事、出会った人々、出身地や家族の事など、色々なお話を交わしました。

その中で、ある時、道中で地元の方から突然辛辣な言葉を投げかけられた、というお話をされました。委細は書きませんが、お話を聞いて、人は、どこまでも比較分別をする生き物なのだと、改めて思いました。
そんな経験をされて愚痴の一つでも言われるのかと思いきや、
「今までの俺だったら言い返してたよ。
でも、その時はそんな気持ちにならなかったんだ。」
少し言葉は違うと思いますが、そんな事を仰っていました。

「ちょっと休もうか。」と、大寳寺まであとわずかの所。私が座れる場所をと探して荷物を下ろしていると、「はいよ。」と、傍の自販機で缶ジュースを買って下さいました。有難う御座いますと受け取りながら、こういうところにまだまだ自分は気が利かないのだと、申し訳ない思いでした。
道端の塀に腰掛け、お話しの続きを聞きながら濃く白い雲が湧き上がる夏空を見上げ、二人並んでケタケタと笑いました。
色々な人がいる。それもまた遍路。そう思いました。

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コメント

  1. 私も遍路をしてから人に対してイライラすることが少なくなったと思います。自分なりに成長したのかなと思いつつ、過去のいろんな事に自問自答したりもしています。

  2. 車道は遠回りにもなりますが、土の道は足にも優しいですよね。もちろんどちらを選ぶかは自由で、私もたまに遍路道を通らず、急勾配がない車道を選ぶこともありました。その選択も楽しいものです。

  3. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    沢山の方々に支えて頂き歩けているのだと思うと、本当に有難い事だと思います。
    感謝する事が以前よりも増え、感情が波立つ事がかなり減ったように思います。
    私も過去の事を思い出して考えたりもしますが、その捉え方が以前とは変わったように思います。

  4. @考え中
    コメント有難う御座います。

    仰る通り、どの道を行くかは人それぞれ。
    それぞれの道でしか出会えない風景や出来事があると思うと、面白いものですね。
    時には他の方に選択を委ねてみると、新たな視点に気付けたり、色々と学ぶ事があるなと感じました。

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