#31 時

#31 時

令和五年一月一日。

「汐風」の宿主様に御見送り頂き、横浪半島から再び宇佐大橋を渡って対岸へ。
橋の中程あたりで背後の空が明るみを帯び始め、初日の出を見る為か徒歩や自転車で東へ向かう多くの方々とすれ違いました。
渡り切って浦ノ内湾の縁を進んでいると後方の山際から追いかけるように太陽が顔を出し、黒々としていた山々に彩を与えていきました。

初日の出。
一年の始まりとして有り難く思い、拝む事もあるかと思います。私自身もこれまで元日の朝日は何か特別に感じていました。
しかしこの日歩きながら、では昨日の朝日と明日の朝日と何か違いが有るのだろうかと、ふとそんな事を思いました。

日付や時間というのは人間都合の解釈で、本来自然界や宇宙においてその流れを区切る絶対的な時間など存在しないのではないか、と。

そして生滅を繰り返すこの大きな流れには始まりも無ければ終わりも無く、過去も無く未来も無く、ただ刻々と過ぎて行く"今"という瞬間があるだけではないのかと、そんな事をふつふつと考えながら歩いていました。

湾内を巡る渡船は年末年始の休業中で、入り組んだ地形も相まってか波を起てるものの無い水面はゆったりと鎮まっていました。
元々歩く予定だったので行程への影響は有りませんでしたが、船に乗っていたらどんな景色だったろうかと周囲を眺めながら歩を進めていきました。

その後、須崎へと入り別格五番大善寺へ到着。
ここで前日出会った野宿遍路さんと再会。納め札を交換して今日はどちらまでと、あれやこれや。
野宿の方は5回目の通し打ちとのお話しに私は翌日の窪川で打ち止めですと告げ、この先の道中もお気をつけてとお別れしました。

須崎を出て安和から先。焼坂峠へ入るか56号線のトンネルを抜けるか、はたまた海岸線へ出るのか。
「汐風」の宿主様から海沿いの道は景色が素晴らしいですよとお聞きしていたので、ならばと「民宿あわ」のある分岐から海側へ進みました。

冬季の為か海水は澄み海底に疎に散る白岩が遠目からでもよく見え、そこへ陽が差してこれまで見たことの無い青さを湛えていました。
通り過ぎる車が時折あるだけで他に人影は無く、少し離れた浜辺で魚獲りでもしているのか兄妹と思しき二人の笑い声と波の音だけ。
その静けさが海の青さをより際立たせていました。

陽射しはかなり暖かく感じられ、日向は半袖でも大丈夫そうな程。
遥か彼方の洋上には室戸岬と思しき影が薄っすらと浮かび、あそこを歩いて来たんだなと暑かった夏の道を想いました。

土佐久礼の宿「ゲストハウス恵」は住宅地の奥まった静かな場所にありました。

宿主様とこの先の遍路道についてお話ししながら、元日の急な宿泊で申し訳ありませんと深謝。年末年始の御多忙の中、宿を開けてくださっているのは本当に有難い事でした。

お風呂を頂き宿主様の御厚意でおせち料理とお雑煮までも頂いてしまい、正月を感じるひと時を過ごさせて頂きました。

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コメント

  1. 青龍寺からのルートは迷いますね。静かな海を見ながら歩きたいなと思いつつ、楽をしたかったわけではなかったのですが船に乗りました。

  2. 自然界的には正月も普段もない「その日」なのですが、「特別な日」ととして生活する私たち人間は、いろんな気持ちが入り混じる素敵な日。自然界と違い、人間はこういったイベントで気を入れ直す弱い生き物なんでしょうね。

  3. 安和駅からの海岸線の道をGoogleストリートビューで見てみましたが、かなり雰囲気いいですね。確かに晴れていたら気持ちよさそうです。それほど遠回りでもないし、気持ちよく歩きたいならこの道ですね。

  4. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    青龍寺からの道は私も悩みました。横波半島をそのまま行くか戻って湾内を歩くのか。
    今回は湾内を歩きましたが船は船でまた違った風景が見られるのでしょうし、横波半島を行く道もきっと素晴らしいのでしょうね。

  5. @考え中
    コメント有難う御座います。

    歩いていると普段は考えない様なつまらない事をこねくり回して考えてしまう事があり、良くありませんね。
    あまり考えすぎず日々を精一杯愉しむ。そうありたいものです。

  6. @naru
    コメント有難う御座います。

    驚くほどの海水の透明度と海上に点在する岩や島などとても素晴らしい景色でした。
    地元の方かウォーキングやランニングをしている方もちらほらいらっしゃったので、人気のある道なのかもしれませんね。

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