#32 記憶

#32 記憶

翌一月二日。

朝晩は特に気温の下がるこの時季ですが、当朝は一層の冷え込みを感じました。

宿を出て国道と大坂谷遍路道の分岐へ。
添蚯蚓の選択肢も有りましたが、前日泊の宿主様からこの先の道について御助言を頂いていたので大坂谷遍路道を行くこととしました。

道沿いの田畑や土が剥き出した場所にはそこかしこに霜柱が起ち、小さな橋の掛かる流れに差し掛かると川面には気嵐が舞っていました。
宿が無ければこの中で寝ていたのかと思うと、自身の浅はかさを思い知らされました。

そこから少し先、行手の東屋に動く人影を見つけ進んで行くと2人のお遍路さんが野営の片付けをしていらっしゃいました。
お早う御座いますと御挨拶して通り過ぎましたが、野宿遍路さんのタフさに驚くと共に寝袋だけでは無く、テントや暖をとるものがやはり必要なのだと知りました。

七子峠を登り切った展望台の様な場所で小休憩。予定よりもやや早いペースだったのでこの後は歩速を落として進めるかと思いきや、歩き出すと足のマメ跡が痛み出し徐々にペースが落ちていきました。

更に岩本寺の奥の院、高岡神社への道を間違えていた事に途中で気付き、足の痛みも相まって少し気持ちを削がれました。
しかし自身の心がどうであれ進むしか無いので、気を入れ直して歩き続けました。

徐々に輝きを増しながら西へと向かう陽を追って行きました。

右手に四万十川の流れが見え中学生の頃、父親と車で四国をまわった小旅行を思い出しました。
桂浜の龍馬像に驚き四万十川で泳ぎ、道後温泉に浸かり金毘羅様へお参りし、うどんの美味しさに感動したあの日々がありありと甦りました。

高岡神社での参拝を終えて岩本寺へ。窪川の町へ入る手前で三輪車に乗る弟を連れた女の子が訝りながらも、「こんにちは」と御挨拶をくれました。
こんにちはとお返しして、私はこんなに礼儀の出来た子供じゃ無かったなと思い、こうした習慣が受け継がれているであろう事に有り難く素晴らしい事だと感じました。

岩本寺前へ着くと件の野宿遍路さんと三度目の再会。

「今夜は通夜堂泊です。」

とのお話に私はここで打ち止めですと告げ、道中お気をつけ下さいとお声を掛けてお別れしました。

心にした思いは各々違えど、遍路の道を行く方々。

お遍路さんに出会う度この方もあの道や峠を越えて来られたのだなと思うと、親近感と共に尊敬の念を抱きます。

今日もそれぞれの道を行く方々に思いを馳せて。

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コメント

  1. 私も遍路中は自分の幼い時のことを思い出して懐かしく歩きました。遍路旅をして良かったことのひとつです。

  2. 岩本寺からはまた長い道のりが続くのですが、次の到達時間なども気にせず一日中ゆっくりと考え事に集中できるのもよいものでした。また、四国の子供達からもらう挨拶はその時の励みだけでなく、自分がその頃にできなかったことを振り返れたいい機会でもありました。

  3. @考え中
    コメント有難う御座います。

    歩いていると昔の何気無い出来事を思い出したりしますね。
    あんな事もあった、こんな事もあったなと、今に至るまでを思い返したりします。

  4. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    地元のお子さん達はよく挨拶をくれたり手を振ってくれたりしますね。本当に有り難く励みになります。

    最御崎寺や金剛福寺への長い道のり。
    周りに民家なども無くただ一人黙々と歩いている時間は、歩くという事、そして考え事に深く没入していたように思います。

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