#44 別れ

#44 別れ

仏木寺から暫し。
相変わらずの土砂降りに吹き付ける風も加わっていました。
そろそろ歯長峠かと歩いていると、前方から走って来た車が手を振って横で止まり、
「今、上へ行って来ましたが、この雨じゃとても歩ける状況じゃ無いです。地元の人間として危険だし止めたほうがいいです。国道を迂回した方が安全です。」
と制止されました。

それを聞いた連れのお遍路さんは、
「前回、迂回路でえらい目に遭いましたわ。」
と、うんざりした様子でスタスタと行ってしまいました。
私は「あらら」と思いながら車の方のお話を暫く聞き、少し考えますと御礼を言ってすぐ傍の民家の軒下をお借りして地図を開きました。

峠を越える遍路道も迂回する国道も結局は先で合流しますが、国道は距離が長く遠回りな為時間的に厳しいと判断し、とりあえず峠へ入り危うそうであれば引き返して国道へ切り替え、次の明石寺への参拝を翌日へ持ち越そうかと考えました。

結果、数年前に崩落したという箇所以外特に危険だと思われる場所は有りませんでしたが、峠道には川の様に雨水が流れ、かなり滑りやすい状況ではありました。
又、崩落箇所に架けられた梯子は応急処置的な物の様で、絶対に安全という保証は無さそうです。今回は無理矢理通ってしまいましたが、悪天候時などは特に通らない方が無難かと思われます。

峠を抜けると『明石寺まで6km』の立て札が目に入り、時刻を確認すると15時を少し回った辺り。納経所が閉まるまでに間に合うかどうか微妙なところでした。

依然衰えを見せない雨と強風にポンチョがバタバタと捲れ上がり、最早雨具としての意味を為さず、下着までしっかりと雨水が滲みていました。
仏木寺を出てから歩き通しだったので休憩を取りたいところでしたが、風雨をしのげるような場所も時間も無かった為、已む無く先へと進みました。

暫く歩いていると先に行かれた前のお遍路さんに追い付き「大丈夫やったろ?」との言葉に、何とか通れましたねとお返ししてまた暫く歩を共にしました。

卯之町手前の県道沿い「みやこ」という御宿の前。
「今日の宿ここやから。なんか不思議な御縁やったね。ありがとう。」
とのお言葉に、こちらこそと御礼の返答と握手をしてお別れしました。

足がふやけたまま歩けばマメだらけになるだろうかと思いながら、それでも明日は帰るだけだしそれも良しと歩速を上げました。

暫く歩いて明石寺到着。時刻は16時を回っていました。
本堂大師堂と参拝を済ませると寺務の方が香炉の灰を振るい御堂を閉める準備を始めていました。
「納経、まだ間に合いますか?」とお聞きすると
「一応17時までだから大丈夫だと思いますよ。」とのお答えにすぐに納経所へ。

御対応下さったのは恐らく御住職か。押印墨書した納経帳を差し出されながら「雨の中大変ですね。」とのお声に「いえ、むしろ楽しかったです。」とお返しすると、ハハハッと笑っていらっしゃいました。

明石寺を後に山門脇の遍路道から卯之町へ出て当日の宿へ。第四回は此処で打ち止めとしました。
翌日は卯之町を散策し午後に松山へ出て松山城へ。食事等々を済ませて空港へと向かい、夕方の便で帰路に就きました。

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コメント

  1. 悪天候で大変でしたね。歯長峠はここ数年ずっと荒れた状態の仮設道のままですがもう直さないのでしょうかね。それはそれでアリのような気もしますが、皆さんご無事で通られることを願っています。そしてこれ以上悪くなりませんように。

  2. 上りの崩落場所もかなり危険でしたが、下りの四国のみち経由の下り道も相当荒れていて歩きにくかったです。その場のパートナーさんとの思い出は私も記憶に残っています。あまりお互いに深くない関係性だからこそ、悩み話も客観的な立場で正直な意見が聞けたのが良かったです。

  3. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    荒れてしまった道を修復するのは費用や人手などの面も含め、容易な事では無いのかもしれませんね。
    四国遍路の長い歴史の中で廃れていった道も有れば、復興や新造される道もあるのだと思いながら歩くと、感慨深いものがありますね。

  4. @考え中
    コメント有難う御座います。

    下りの道も荒れている場所があったのですね。峠に入ってからは越える事に必死で、周囲をよく見ていなかったのかもしれません。

    先に行かれたお遍路さんが引き返して来なかったのでこれは多分行けそうだと分かり、見えない後ろ姿に引っ張られていた様に思います。

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