#60 見

#60 見

翌日は一日を通して晴れの予報。
この日は六十番横峰寺へ、登って下りて六十一番香園寺へ。時間があれば更にその先の札所へ足を延ばせるかどうかという行程でした。

この日も早朝に宿を出た為、暗闇の中をヘッドライトの明かりを頼りに歩き出しました。

鼻の奥にツンと滲みる冷えた空気。
前日に比べて一層の冷え込みを感じながら歩いていると、道沿いの所々には霜。

冬至を過ぎて日の出が徐々に早まり、気付けば頭上の半月と明星が明けの空に溶けていました。

舗装された道は徐々に勾配を上げながら横峰寺のある山へと分け入って行きました。
8時過ぎに湯浪の休憩所に到着し、トイレを済ませ東屋で少し長めの休憩。靴を脱ぎ足を乾かしながら携行食をかじり、黒飴を一つ。

黒飴はお遍路を始めてからお気に入りとなっていますが、若い頃は見向きもしなかったものが妙に美味しく感じられる様になり、歳を経て味覚も変わってきたのかなと思う今日この頃です。

休憩を終えて遍路ころがしの待つ山へ。

遍路道、特に険しい山道へ入ると「また遍路へ帰ってきたんだ」という思いが込み上げてきます。

海沿いの美しい景色や田畑の広がる長閑な景色。
そうした風景に心穏やかになる時間も良いのですが、一人山に入り、足腰に負荷を感じながら息を弾ませて進んで行くあの感じは、歩き遍路の醍醐味の一つでもあると思うのです。

幾度かの急坂を越えて小さな小川を渡り、さらに奥へ。
大雨が降ると川水が増して通行不可になるそうですが、この日は運良く岩間に細い流れが見える程度でした。

9時過ぎに仁王門へ到着。
800m弱とはいえ高地の為、平地よりも気温が低く感じられました。
寒さに耐えながら参拝を済ませて納経所へ。
居合わせた車のお遍路さんに声を掛けて頂き暫しの雑談。

納経所を後に向かったのは「星ヶ森」。
仁王門を出て左手に進み、葛折りの坂を数百メートル程。

他の方の投稿で目にしていた"あの構図"。
ついにここへやって来たんだと近づいていくと、右手に弘法大師をお祀りした祠が目に入り、その少し先にあの鳥居が見えました。

冬晴れの澄んだ空気のおかげか、薄っすらと雪化粧した石鎚山と山肌を覆う木々の一本一本がはっきりと見えました。

遠く小さく、どこからとも無く響いて来た法螺貝の音に、石鎚山が山岳修行の場である事を思い出し、山中を巡る行者の姿を想いました。

良い。
ただただ、良い。

言葉では表現しきることの出来ない風景と感情でした。

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コメント

  1. 長く車道を歩いていると久々の山の遍路道が来るとワクワクしたりします。その後汗だくになって、また車道に戻りたい気持ちになったりしますが。
    私は先を急いだため星ケ森には行きませんでしたが、SNSなどで画面越しに見るあの鳥居はやはり見ておくべきだったと後悔しています。次回はしっかり時間をつくって見に行こうと思います。

  2. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    私も山へ入る前は気持ちが少し昂ります。
    平地を歩いている時よりも、自分の心の動きがよく分かる様な気がしますね。

    星ヶ森からの景色については私も同様にsnsで目にしていたので、ここに辿り着いた時にはと楽しみにしていました。
    写真では感じる事の出来ないその場の空気や匂い、音など、本当に感動的な場面でした。
    私も機会があればもう一度訪れてみたいです。

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