#52 旅

#52 旅

「八丁坂」泊の翌日。
この日は余裕のある行程でしたが、札所以外に立ち寄りたい場所があり、そこで少し時間を取れればと早目の出発となりました。

5時頃外へ出ると、重くのしかかる様な曇り空と日の出前の為かまだ暗く、辛うじて道が見える程度。空を忙しく流れて行く雲が、台風の接近を知らせていました。
当日の早朝、和歌山県沖から上陸した台風は、本州を日本海側へと横断すると予測され、近畿や中国四国地方が暴風域に入るとの予報でした。

出発からポツポツと落ちてくる空模様。久万高原という高地の為か、出発時は20℃前後でやや風もあり涼しく、袖有りの白衣を着て歩き出しました。一時雨足が強まりましたが、台風の影響で降り止みの繰り返しだろうと、濡れるがままに。
暫く歩いて三坂峠への道と、国道33号線のバイパスへと別れる付近で一休み。再び歩き出し峠の方へと進むにつれて、徐々に霧が濃くなっていきました。

この後のお話は以前、『雑記』の項目に「今を生きる」という題で上げていますので、宜しければそちらを御覧下さい。

坂村真民記念館を後に33号線を北上し、途中で東へ折れて四十六番、四十七番方面へ。
予想よりも時間に余裕があったので、少し先にに在る別格八番文殊院へも足を運びました。
この日は「長珍屋」に宿をとっていたので、道を戻って八坂寺、浄瑠璃寺の方へ。

田んぼの間の道を八坂寺へと向かっていると、前日に久万高原でお別れした件のお遍路さんが向こうから歩いて来ました。
もうお会いする事は無いと思っていたので、お互いの姿を認めると二人して笑顔に。

「明日帰るんじゃ風が残りそうだね。週末も雨予報だし、俺は道後温泉あたりでゆっくりするつもりだよ」と。

そして別れ際
「また会おうな!」
とのお声に
「道中お気をつけて!」
とお返しして、それぞれ反対の方向へと歩き出しました。

ああ、旅をしているんだと、一人静かに噛み締めました。

当日は8月15日。終戦の日でした。
八坂寺では戦没者慰霊の法要が行われていた様で、御寺の方々がその後片付けをされていました。邪魔にならない様にと端の方で読経し、拝観もそこそこに御寺様を後にしました。
続く浄瑠璃寺での参拝を済ませて「長珍屋」へ。想像していたよりもはるかに大きな御宿で、100名か或いはそれ以上宿泊出来るのではと思わせる規模でした。

お部屋へ御案内頂き、荷を解いてお風呂へ。
宿入りが15時過ぎとかなり早かったので、浄瑠璃寺で頂いた供物のお裾分けを頂きながら翌日の準備などあれこれ。
明日の天気はどうかなとテレビを点けると、翌日松山空港で帰路便に乗る頃には、台風の影響はほぼ無くなっているだろうとの予報でした。

少し横になってうとうとしていると、部屋の電話が鳴り「御食事の時間です」と、一階の大広間へ。襖を引くと広大な広間の角にポツンと一膳。当日の宿泊は私一人だったのか、こんな経験も中々ないなと一人静かに頂きました。
壁には何百回も巡られた方の掛け軸などが飾られ、繁忙期にはこの広間がいっぱいになる程のお遍路さんが訪れるのだろうかと、賑やかな座敷の様子を思い浮かべました。

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コメント

  1. その昔(といってもそんなに大昔ではないですが)そんな長珍屋さんでも満室で相部屋にするほどだったと聞いた事があります。

  2. @あの時の亀
    コメント有難う御座います。

    そうなんですね!そんな時代もあったのですね。
    時代の流れと共にお遍路さんの数も減ってきているのかもしれませんが、そんな中でも営業して下さっているのは有難い事ですね。

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